加藤和子歌集『天球の春』

ほたる坂、われ人ともにみかはすそれぞれの眸に蛍やどして

蛇行せる川海ならず淡水の湖へとそそぐ面を伏せて

天上よりひかりを牽くか膚清く直き佇立に杉の木立は

逢ひたくば来よとふたより冬桜雪片ほどの儚さに咲く

天球の春まづしけれど蕗の薹ああわが血よりさやに息づく

 

「出来得れば、よろこびや希望、そして美しいものにめぐり逢いたい」(あとがき)という作者の思いが呼び込んでやまない世界は、雪のようでもあり、白鳥のようでもある。否、もっと根源への希求・・・。


四六判上製カバー装 2500円・税別