姜尚中のオモニもわが家のオフクロも子のため精出(がまだ)しき泥のごとくに
齢(よはい)四十六億年の星に存へて悪腫瘍など何のこれしき
子どもらが路地にて交す<さやうなら>春寒をこもる書斎にとどく
筑後の人菊池のかの人川渡るたびに人恋し鹿児島本線
休むなく晩酌をするを罪悪のごと言はれつつ義務のごと飲む
唐破風千鳥破風におのづから序破急ありて波うついらか
雛(ひな)を襲ふ狐とたたかふ白雁の翼が夜々の夢にはばたく
時代に翻弄されながらも挫けない母親像、四十六億年」の生命力を味方にして大病と向き合う自画像。なにげない言葉に立ち止まる細やかさ。人生のベテランならではの奥行きと軽みが楽しくも味わい深い。楠田さんは歌の仕事を共に担うことの多いわが兄貴分、これからも長く短歌を支えていただきたい。
三枝昂之
四六判上製カバー装 2500円•税別