暗きアトリエにて生み出されし人体が水平線の窓辺に置かる
工房の倉庫に眠る粘土塊を朝の光のもとに運び出す
アジアンタムに秋の日は射しかの人の艸の戦ぎゐしこと
わたくしは雨であり車輪であり轢かれた肉だ カミツレを摘め
ジャコメッティの塑像も倉庫に眠っていた粘土の塊も、置かれる場所が変わればまったく違う表情を見せる。そのように、家族の一人一人が、そして自分自身が、置かれた時代や場所によって、今いる場面や状況によって、多様な表情を見せ、ときに予想外の一面をあらわしたりもする。
この歌集は、家族の一人一人の、あるいは自分自身の、多彩かつ多面的な表情を浮かび上がらせることで、この世の不思議を、さらには生きることの思いがけない起伏を、ダイナミックにうたっている。ぜひ、多くのいい読者とめぐりあってほしいと願う。
佐佐木幸綱・序文より
四六版上製カバー装 2500円・税別