吉野節子歌集『加良怒』

西行、明恵、登志夫と書きし白紙(しらかみ)を寒満月に差し出だすなり

春寒き磯の口開け、海に入る(をみな)それぞれ化粧(けはひ)してをり

(もも)(なが)に海の(おもて)に寝ねてをり漂ひをればゆふぐれてゆく

人はなぜ舟出するのか、濃き淡き青海原のまひるの平ら

みづうみのけさの水面想ふときわれは微笑みうかべてをらむ

 

まぼろしを見る。まぼろしと向き合う。

日常の隙間を、時として古代を、

自らの歌のしらべの中にそっと喚び込む。

特異な時間意識の深層には産土の地、土佐。

はるか、輝く黒潮のかなたに歌が届く!

 

四六版情勢カバー装 2500円・税別