小宮山玉江歌集『葡萄棚の下で』

夕立の残しゆきたる大き虹(かひ)の山から山をつなぎぬ

欅の木遠くけぶりて空白しひたすらなりや今日降る雪は

手入れ終へ葡萄畑の棚の下つかれの淀むごとき夕暮れ

一瞬に奪はれし命 延命に生かされし生 思ひみるなり

流れきてここに芽ぶくかくるみの実千曲(ちく)()に春の水の流るる

 

農に生き、農に親しむ。

夫ともに葡萄棚の下で汗を流した日々。

そして、夫の看取りの日々と永久の別れ。

長く辛い時を経て、いのちの輝きを取り戻すまで、歌のしらべはみずみずしい葡萄の果汁そのものである。

四六版上製カバー装 2400円・税別