金子愛子『花の記憶』

エスペラント語研究所とある坂の上陽の当たる窓常に閉ざせり

(かほ)のない千代紙人形買ひて終る愛にとらはれし日々を旅して

呟きのごとく近頃口ずさむ「捜しものはなんですか」

勤め先変はりひと月通ふ街「花」とふ小さき茶房覚えぬ

高層のマンション一面に朝日差し当り前のやうな平穏があり

 

長い歌歴をもつ金子さんの歌には、秩序立った端正さと無秩序の愉しさがある。都市生活者としての嘱目詠、家族詠、旅行詠など、その幅の広さはそのまま人生の充実を想わせる。反面、やり直しのきかない人生の隙間を埋めるように愛を詠う。甘さも苦さも切なさも知り尽くした愛子さんの、初々しくもこくのある人生讃歌である。      (佐藤孝子)

 

四六版上製カバー装 2500円・税別