寒野紗也歌集『雲に臥す』

岩の上に姿を晒し飛び跳ねる若鮎のまま水に戻らず

野をめぐり雲に起き臥す「花月」舞う姑在りし日の夏能舞台

神棚の水替え供花の茎を切る務めねば消ゆきのうのすべて

ひとりずつ春の野原に発たせては降り出す雨に顔をむけたり

筆描きの古代絵地図の遥ばろと海と陸とは移ろいにけり

 

かがり火が揺れる。

光に照らし出される白足袋の白。

なつかしい人々への思いを抱きながら、

幽冥界の境へと歩み出て

たおやかに歌を舞う!

 

現代女性歌人叢書 2500円・税別