湿り気をおびた曇り空の下、
憂愁の影を曳きながら歩む一人の旅人。
もう十分に言葉の豊穣な果実を捥ぎ取ったか。
果汁の滴り。
両掌に受けるのはさびしい定型の水音だ。
『孤影』より5首
傘の流れにひかり運ばれ消えゆけり時は未生の尾を曳いゐる
あした
いづこにも底なき銀河あらはれて詩歌かがよへ霜の朝は
火の中にむち打つ音を聞きながらあゆみゆける孤影なりけり
指さきにかをりひろがる昼さがりひかりの谷に蜜柑をもぎぬ
人間の命をかたるやさしさが星の明かりのかたはらにあり
判型:四六判上製カバー装
頁数:162頁
定価:2,400円(税別)
ISBN 978-4-86629-109-3