鈴木紀子歌集『万の指』

花冷えを素早く知れり瓶に残るバージン•オイルの白きくもりよ

きはまりて一気に散りたり羽二重の衣脱ぐごとし白き牡丹は

寂しさに堪へかねふたつ合はさりし形なるらむ黄は降り止まず

万の指天に昇れりひろしまの夏の電車に揺られていたり

 

作者の世界の多様さ、あるいは表現の技巧の多彩さに、

先ず目を惹かれるに違いない。いわば知の峰と情けの峰、

心と志の海のふたつを、あるときはまさぐりながら、また

あるときは眉を挙げて言葉にする。そこに、この歌集の

大きな魅力のひとつがある。 光田和伸 跋文より

 

A5版上製カバー装 2625円•税込