田中拓也歌集『雲鳥』

=第17回寺山修司短歌賞受賞!=

 

雲鳥のはためく夏の岬より八月の空澄み渡りたり

バスに揺られ緑の山を眺めおり樹々の心は常に遠くて

誰の子の産声だろう 百段の石段のぼり聞く森の声

鉄塔に映える夕陽が美しい百万回生きたねこがほほえむ

未来とはさびしい言葉 古ぼけたテトラポットに腰をおろしぬ

あなたの立つ小高き丘を吹き抜ける風よ八千年の秋を集めよ

 

雲の間を飛ぶ鳥。その孤高にして純粋な霊魂の形象を仰ぎつつ、

流れ行く生の時間と向き合うやさしい眼差し。

澄みきった心には澄みきったしらべが宿り、言葉が青々と繁る。

被災詠をも加え、さらに厚みを増した歌のたしかな飛翔力。

 

四六版上製カバー装 2625円•税込