いかような願いをこめて名付けしかわれの名「海洋(なるみ)」海に向きつつ
無念そうに一声吠えて夕の五時終えたる犬をわれは抱きしむ
なに、なにと問う二歳児に娘も真顔育児と育自の試練始まる
シャンパンを庭の四隅に撒きて謝す離るる総(ふさ)のおぼろなる宵
石和は桜、五湖は銀雪、四月八日山ひとつ越え季節ふたつ愛ず
夭折のあなたの墓前白百合の香はわがシャツに移りておりぬ
やさしくそして柔靭な明治の甲州女の母の姿、
その世界が高橋海洋の歌の書くのひとつとして存することを知り、
私などは沁み透ってくるような熱いものを覚えた。
歌を紡ぎ始めたのは五十歳を過ぎてからではあるが、
十余年にわたり、月例勉強会に往復五時間もかけて出席するなど、
本集にはその努力の結晶が確かに詰まっている。
下村光男
四六判上製カバー装 2625円•税込