太田豊歌集『時の秤』

合併後残れる者も出てゆきし者も辛酸を嘗めし年月

現代の閉塞の中をそれゆえに儲かる商ひきつとあるはず

右顧左顧ところ構わず平こらす踊念仏のふだ配るごと

職場にて一人励みぬ優れたる人と社員に思はれたくて

親しげに会社に通ひ綻びを見つけ合併の楔打ち込む

取引の未収七百万取り立てを頼まれ苦し六十四歳

 


近現代の短歌に欠如するものがある

とすれば、それは経済観念だろう。

私たちはいま経済を切り離したところに住むことは出来ない。

太田豊氏の歌集『時の秤』は生活凝視の歌であるが、

現代の経済と切りむすぶ歌でもある。  島崎榮一•帯より

 

A5判上製カバー装 2730円•税込