貝沼正子歌集『触覚』

もの言わぬ同僚との間合い計りつつわたしの触覚がのびる長月

代替案のないまま否定する女の触覚男には見えない

三軒を梯子のつもりがこの店のどぶろく私をどろどろにする

憎しみは丸めてみても飲み込めずポンと蹴ってもまた戻ってくる

完璧を目指さなければ楽になる仕事も家事も人の評価も

 

 

いっけん鋭利な刃物で切ると思えば、引いてしまう心の壁がおもしろい。

薬剤師という仕事柄、完璧を目指して落ち込むこともあるが、

女の触覚を伸ばし颯爽とした調べはここちよい。

光本恵子

 

四六判上製カバー装 2625円•税込