春庭は白や黄の花のまつさかりわが家はもはやうしろに見えぬ
窓のそとに木や空や屋根のほんとうにあることがふと恐ろしくなる
嬰児のわれは追ひつかぬ狼におひかけられる夢ばかり見き
すばらしい詩をつくらうと窓あけてシャツも下着もいま脱ぎすてる
「『植物祭』と並び称された幻の歌集『シネマ』である。
前衛短歌の先駆けとして注目される新芸術派短歌。新芸術派短歌は石川信雄が牽引した。『シネマ』の大胆、自在、劇的、スリリングなイメージの展開、文語と口語が衝突して火花を散らす一首一首の情景は、新芸術派短歌運動の現場の熱気を伝えて、現在もなお新鮮である。
佐佐木幸綱 帯文より
四六版並製 1500円•税込