安藤美保歌集『水の粒子』

フレンチスリーブの肩見ゆ扉という扉にきびきびと鍵をかけて出る母

ふいに来た彫像のように妹のからだの線は強くととのう

寒天質に閉じこめられた吾を包み駅ビル四階喫茶室光る

風車からから回れ父親が吾にはぐれし五月の砂場

ずいずいと悲しみ来れば一匹のとんぼのように本屋に入る

 

古典から学んだ確かな骨格。

現代女性の柔らかな感覚。

「寒天質に閉じ込められた吾」が歌う世界は、透明でしかも不思議な手ごたえに満ちている。

俵万智

 

46判上製カバー装 2625円•税込