本阿弥秀雄歌集『傘と鳥と』

ぬばたまの夜がゆつくり降りてきてふはと被さる牡丹の花に

犬筑波•犬死•犬目と見下げられ立つ瀬もなしと夢に犬言ふ

いつよりか倒れてゐたる自転車が西日の中に年寄りて見ゆ

深鳥は鳥まかせなり枯藪の中ウィスキーそつと注ぎ合ふ

差す傘は斜めに傘のなき人は体斜めに夕立を行く

 

身辺日常のありふれた事象の中に一瞬キラリと輝くものがある。できるだけ平明な言葉を選び、すべての定型のしらべへと軽やかに衒いなく託す。滋味と深みの粋。

 

万象のひかりをさりげなく射止める感性の冴え!

四六判上製カバー装 2700円•税込