大西百合子歌集『峡にふる雪』

細々と歩めるほどの雪を掻き人の世につなぐ路開けておく

たてがみのごとくに髪をなびかせて冬のベンチにわれは旅人

刈り草の匂ひに杳き母ありて火の手のごとき峡の夕映え

更けし夜の風音ならむか全身を耳にして吾も山の生きもの

雪見障子に雪の舞ひをり琴の音の早春賦はわたしをめぐりゆく風

 

島根県青谷町山根。しずかな山峡の里で一人うたを詠み続ける。「あなたの歌は深い。歌が深いということは心が深いということです」との先師•前登志夫の言葉がどれほどの励みになったことだろうか。峡とはこの世と異界とをつなぐ聖なる結界だ。

四六判上製カバー装 2625円•税込