若松輝峰歌集『酔候』

 

川螻蛄(げら)の跳ぶ水面(みなも)は茜色となり母の育ちし村暮れむとす
字を縦に書かざる国の少年の手を執り「春(スプリング)」と書かせてやりぬ
燐寸ほどの膨らみ見せて危ふげに赤蕪は立ち風に逆らふ
白ワインのコルクを抜きて祝ふべき何一つなくグラス差し上ぐ
曲肱(きょくこう)の楽しみの域にはあらざれど醒めては飲み呑みては眠る

 

 

若松さんは異能の人だとつくづく思う。書道で身につけてきた「こころを込めて対象に向う」姿勢。うたを貫くものは、終始変わらぬ反骨の精神であり、歌集『酔候』は、まつろわぬ魂の軌跡なのだ。  真鍋正男•跋より

 

四六判上製カバー装 2600円•税抜