森上結子歌集『雪の花』

くろぐろと墨塗りたるを原点となしたるはずの教科書なりき

離郷して四十数年夫娘亡し思い出ただに詰まるこの町

何も見えないこの道だけどもう少し歩いてみよう 何が在るはず

ひさかたの天の浄めの雪の花そそげよそそげ父娘(こ)の墓に

受話器置き呆れたる目につけっ放しのテレビが映す東京のさくら

 

教科書に墨を塗った世代が生きづらい今の時代を渾身に生きようとする歌の数々が並んでいる。教師としてともに歩んだ亡き夫、障害者であった亡き娘を偲ぶ晩年の日々。透徹した目がとらえた日常は読む者の心に響く。  玉井清弘

 

四六判上製カバー装 2500円•税込