磯田ひさ子歌集『還る』

還ることあきらめたるか七夕の短冊に何も書かざる少女

苦しめる友も救へず死に近き母も救へず雪降りしきる

秀でたる一首なければわが後はただ善き人として消ゆるらむ

借財をしたたか負ふ身に牛を引き仁王立ちなり左千夫の写真

 

還るー嬰児へ、いや未生以前の世界へと。悲喜こもごもの日常も、世の中の激しい変化も、天変地異も、すべてはこの世に生きて歌うことのあかし。

歌誌「地中海」での長い作歌の時間は成熟を遂げつつ、おおらかで温かい言葉としらべを自らの内に呼び込んでやまない。

 

四六判上製カバー装 2600円•税別