廣庭由利子歌集『黒耶悉茗』

西窓に滴る夕日倦みながら梅雨にふとれる鱧を湯引きす

『恋しらに』

色草のひかり濾したるひそかごと解けて結べる風の草占

『惑ひ』

ゆふべよりややふくらみし半月をのころぐさでこそぐりませう

のころぐさ』

乳色の漿にしよごれ無花果は髪を解きたるサロメを呼びぬ

『楕円の月』

わがものにならぬをのこを恋ふるやう〆張鶴を人肌で飲む

『寒の椿』

 

私は彼女のような才能がまだ無名のまま隠れていたことに、一種の驚きと希望を感じている。

日本の歌壇も捨てたものではない。(塚本青史•跋文より)

 

四六判上製カバー装 2500円•税別