小暮靖代歌集『風になる』

廃れゆく旧道沿いの和菓子屋に今年の春を購いて来つ

黄の色の極まりて咲く菜畑に吐息のように蝶湧きあがる

昨夜も居し蜘蛛が今宵も新聞に小さく居すわる句点となりて

 

一日の終りの儀式「オレの足」を探して二本あるを確かむ

もう一度土を踏みたい「オレの足」ベッドの傍に靴揃え置く

歩きたかった帰りたかった「オレの足」履き慣れし靴を棺に納む

 

これらの作品には、詠法とか、技術を問う以前の人間の心の叫びがある。

高橋良子 跋より

四六版並製カバー装 2000円•税別