大建雄志郎歌集『風の回廊』

削ぎ落とし筋骨のみなるチェーホフの散文の簡 短歌にぞ似る

英国に〈目的なき塔〉なるが所々にあり余分なることまた文化なり

かなしみは溢るるほどだが溺るるはさらにかなしく蔵ひて生きむ

花は地に落ちしあとからが本物と或る画家の言葉忘れがたしも

紫陽花の蒼なくば梅雨も寂しからむ麦酒に枝豆われに我が妻

 

チェーホフを愛しながら、大建さんは、ビジネスの世界で極限の緊張も乗りこえてこられた。むしろ、努力の陰に文学への心寄せがあったというほうが現実であろう。長年の苦労満載の体験さえ、志を貫いてのちの創作姿勢に生かされている。…今野寿美

 

四六判上製カバー装 2500円•税別