紅葉の深まる一樹見上げ佇つ入り日に映える明日は散る色
ここ幾日夢路にありと思ふまで桜しらしら沼辺にかすむ
娘が着て今また孫が着るわれの編みたる紺のセーター
木洩れ日を踏みて巡れる名水の流れ涼しき武家屋敷跡
燻りて抗ふ身ぬちの虫あれば気の済むまでは燻らせおかう
小川氏は倦まず弛まず、文字通り一歩一歩着実に詠み続けてきた。本書の作品に見られるような、一件地味な作風•作品の底に漂う詩情は、長く精進を重ねた、偽りの無い成果である。
野地安伯•序文より
四六判上製カバー装 2600円•税別