夕陽背に「立入禁止」の柵に立つわが影はすでに柵を越えて
カーテンの波打つさまは音もなく寄せくる老いの翳りにも似て
いつの世もやがて一人となる二人寄り添い散りゆく花を見ており
日に幾度「あなた」と呼ばれ飽きもせぬ何杯も飲む煎茶のように
梅の木の枝低くして鼻先に香りほのかに春を呼びくる
末本短歌は難しい言葉は一つも使われずに、読者に負担をかけず、誰が読んでもよく分かる歌ばかりである。しかし、一見単純なようで、深い味わいがあり、生の、そして老いの哀歓が翳りを伴って、深々と胸に沁み入ってくるのであるー光栄堯夫•跋より
四六版上製カバー装 2300円•税別