今日は少し疲れてゐるのハロウィンのカボチャのように笑つてみせる
沈黙の時の間に逃げ込めばシャドーグレーに黄昏れてくる
温かき飲み物売れる自販機の身内のやうな親しさに佇つ
工事場の乾いた闇の点と線繋ぎ合はせてゐるバリケード
手袋のままで握手をするときの皮膚感覚に二月過ぎゆく
鉄色の夜を帰りきて掌に除菌のソープ泡立ててをり
神職の身にある三澤吏佐子が、長い沈黙を破って、『遺構』以後の世界をここに繰り広げる。混沌とした「今」を生きる者のひとりとして、揺れつつ軋みつつも世情を俯瞰するその目差しは鋭く、そして優しい。〈シャドーグレー〉は光が強ければ強いほど深く濃くなる影の色。それは現代社会を象徴しているのだ。詩心の深化が際立つ。
野男•時田則雄
四六判上製カバー装 1800円•税込