「まぁええか」呟くほどにまたひとつ失うものが増えてゆきたり
わが手より三歩駆け出し待っている自動改札茶色い切符
他の星へ移り住まんとなる時は歌人はきっと最後のロケット
下を向き咲く花なれば下手より撮れば真直ぐに我を見つめる
捕まえたと我は思っているけれど「捕まってみた」この犬の眼は
たそがれの電車の響きは繰り返す「なに言うてんねん、なに言うてんねん」
読みながら私が感じたのは、面白いなあということだった。実は現代の短歌に最も欠けている一つは面白さではあるまいか。……言葉本来の意味の面白さをもつ歌集ははなはだ少ないように思われる。『鯨の祖先』を読むと、われわれは何かしら目の前が明るくなり、心はゆったりとして開放感を味わうのである。
伊藤一彦・跋より
四六判上製カバー装 2500円•税別
電子書籍版 1500円•税別