石礫落つる勢ひ水の辺(べ)へまつしぐらなり冬のセキレイ
美(は)しきもの世に数多あれ乳与ふ娘ひかりの中にうつくし
秋鰹泳ぎてもどる海洋に核の毒ながすあはれこの国
痛みつつ想ひ遡る遙けくも命を生みしその朝のこと
私の身辺では老い、病、死が身近なものとなり、社会は閉塞感に満ちている。戦争と縁を切ったはずのこの国にまた、戦争に関わる気配が濃くなってきた。このような社会にいて自分はどのように生きるかという問いから逃れられない。短歌も無関係であることは出来ないという自分の思いが根底にありつつ、作歌においては出来る限り写実に則り、抒情を心がけてきた。(あとがきより)
四六版上製カバー装 2600円•税別