あしたまたと小さき別れ積み積みてひとはおほいなる別れのときくる
ひとり歩き叶はぬ夫の両脚を撫でつつ無心のわれに驚く
ことしのみみるらむ藤とおもひゐしか悲しみ抱けば藤はふくるる
ほうたるのひかりの強弱 風たてばなほひかりまし一生はあれと
聴ゆるし色いろ知りしはいつのこころなる夕焼けが闇に入る間をたたずむ
歌集一巻の底をひそやかに流れるものは、季の移ろい、そして生と死の時間。病苦の夫を看取り、末期の水をとり、二匹の鯉を形どった墓碑を作った。ひたむきな鎮魂の抒情は円熟しつつ、深く、かなしい彩を帯びる。
四六版上製カバー装 2600円•税別