ざぼん坂に蝋梅が咲き約束をしたかのやうに粉雪の降る
立ち行きし人の席には空白の像(かたち)のありて長く目をやる
平飼ひの対馬地鶏が一斉に敵見るごとくわれを見るなり
焼かれたる『一握の砂』は灰の花頁の数だけ花びらを持つ
われを統ぶる銀の電池は八年の命を繋ぎ動き出したり
教会の床にガラスの色が落ち赤き衣の聖者を踏みぬ
歌ふことによつて対象との距離を測り、そして自分の心に受け入れてゆく。
短歌とい表現形式のもつとも大切な働きを碇さんはその歌作りの最初から手中にしてゐた。
馬場昭徳・解説より
四六版上製カバー装 2500円・税別