岡本育与歌集「秋なのに秋なので」

眉月の風に飛ばされそうな空張り付くようにその位置保つ

全(まった)かるものの少なきこの世にて水面を照らす落暉の豊かさ

生きている喜び素直に歌いつつ如月の空に初雲雀鳴く

地の底に宇宙の音の生(あ)るるごと水琴窟の音は透明

星光を小さき花びらに受けながら夜を白々と秋明菊咲く

 

英語版も出してきた著者の第六歌集。不穏な時代にあって、危機意識が風化されていくことを怖れる。あらためて自然のもつ生命力に帰依することで、想像力を培う実像。

篠弘

 

四六版上製カバー装 2500円・税別