金盃の月に寄り添うひとつ星光を放つ父の面影
マンションの自動ドアよりいっぱいの春光曳きて子の帰り来る
めくるめく光の中を散りゆかん新葉に譲る花いさぎよし
錦繍の衣着けたる魚たち五体全てで交わす言の葉
幾千の葉裏の輝き風に揺れふと秘めし思い人に告げたし
一本のぶどうの杖が支えたる父のからだは一枝でよし
この歌集には父を詠んだ歌が多く、どの歌にも娘としての愛情が溢れんばかりに出ている。注目されるのは、「被爆せし伯父」の一連である。人間を生き地獄に落とした現実を風化させてはならないという作者の願いによるものと言えよう。
佐田毅・序より
四六版上製カバー装 2500円・税別