変哲のあらぬ五月の空ひろく原発一基も動いてをらぬ
アウシュヴィッツ後に抒情詩を書く野蛮ふと短歌こそ抒情詩なるを
も少しを君のかたへに見る海のなにも応へぬ波音を聞く
山頂はしるく注連立て深々と天に交はる奥津磐座
極東を極楽とわが読み違へ黒霞零る日本かここは
日常の些事を詠おうと社会の悲惨を直視しようと、あるいはドイツへ旅し、家族に思いを向けようとも。齢を重ねるにつれ、作者本来の清新にして鋭い批評性が、あたかも聖なる神の依代のように、この短詩型に強く籠る。
詠い継ぐことで垣間見せるもうひとつの精神世界の原色の明滅!
四六版上製カバー装 2500円・税別