片翅の失せたるゆえか捨てられて道に身じろぎながら蝉鳴く
拓かれて今は田もなし川俣事件ここにありしかありてかなしむ
脱ぎし服片づけくるるわが妻よありがとう長かりし勤め終えしぞ
秋風にかざして立てば風車のごとくわが五指なびくと思えり
妻問いにゆくか赤げら赤帽をかずきて森に波うちて消ゆ
麻痺というあわれを知らず疑わず幼とりたりわが左手を
生きるということは「光」と「闇」の織りなす世界を走りきることであろう。今泉進の短歌の世界にはまぎれもない「光」と「闇」がある。昭和から平成の時代を誠実に生きた歌人の最後のメッセージ。
田中拓也帯文より
A5版上製カバー装 2600円・税別