坂道の角を曲がれば弟の生れし家なり馬酔木が匂ふ
ページ繰る記憶残して返り来ず亡き弟に貸したる詩集
六歳のわが目に被爆の天主堂煉瓦の浮遊してゆくごとし
梯子のびて若き男が赤き玉を拭きはじめたり風の交差点
好きな場所選んで人は皆ゴビに葬られるとふ広大な墓所
終電の遠く過ぎゆく音のして生きる日々とは往き帰ること
「旅が私の人生そのもの」と南條さんはいう。その旅とは、自らの来歴をたどる旅であり、歴史を遡る旅である。さらには人間の生死が見えわたるような場所への旅であろう。
小林幸子・解説より
四六版上製カバー装 2500円・税別