荷を送り発ちし子の部屋広々と三月のカレンダー風にゆれおり
すべてキャド駆使する職場になりし今われと製図台細々残る
花蜘蛛のいつしか傘の内側に止まりて共に参道下る
菜の花の黄色封じて送りくれし母よ彼の日よ今に抱きしむ
リズム良き足音駆けゆく窓の下あれは五分刈り青年の音
明け番の夫の挿したる野あざみの位置整える夜の食卓
逸見さんは平成三年に「歌と観照」に入会し、平成七年に新人賞にあたる、「歌と観照社賞」を受賞した。「野あざみ」は、おそらく作者の好きな花。山野にも郊外にも見られるが、紫の花の色はさえざえとして、野の花の強い生命力を感じさせる。
五十嵐順子・跋より
四六版上製カバー装 2500円・税別