人生の半ばを過ぎてぬばたまのカーマイケルを思ふことあり
われに母在ると思へば夏雲はこの大空に昼をゆたけし
銀河系、その創まりを思ふときわが十代の孤り晶しも
憂ひありて思へばわれに父ありて夕べの祈り捧げゐるらん
顧みてねがふことなきわれになほ盧生の夢のごとき残生
クレヨンに描かれてゆく麒麟なりさうだ象よりずつと喬いぞ
夢ひらく水木の花に沿ひてゆくお前のゐない動物園で
ふるさとに帰りて思ふ徴税人マタイが従ひしその人のこと
待望の小紋潤の歌集がついに刊行された。短歌はついに人間なのだ、古くから言われてきたこの言葉がこれほど似合う歌集はめったにない。どの一首をとりあげても、小紋潤の声が聞こえる。小紋潤の息づかいが感じられる。そこに小紋潤その人がいる。
佐佐木幸綱