久びさに歩き詣でる人麻呂神社父をおくりしのちの初春
白緑のいただき見する高千穂峰の鳥すむ森のふところに入る
新入生迎へむ机にひらがなの名札貼りをりまつすぐまつすぐ
鹿野遊小石河内小も閉校す愛しき名前の消えゆく平成
濃き淡きあまたの地層かさね来し老いの人生をうたに教はる
ひともとの極楽鳥花ふるへをり夜半のテレビの銃のひびきに
六十句選び遺句集『花菖蒲』編みて供ふる夕雨の盆
福原美江さんは歴史豊かで思い出深い故郷の石見にしばしば帰っている。抑制のきいた清々しい文体の故郷の歌が『夕雨の盆』のまず印象である。そして、前歌集『雁皮紙』に続く十年間の彼女の宮崎での生活がいかに充実し多忙であったかを証す一冊でもある。大学教授を辞したあとのボランティア活動、最愛の家族の看取り。『夕雨の盆』という優しく寂しいような書名に著者の祈りがある。
伊藤一彦