高崎淳子歌集『難波津』

ゲーテ登り茂吉も登りまだらゆきリギの裏山眺めて過ぎる

生は死をそそりムリーニ渓谷にレモン輝き海は誘ふも

国語教師三十六年に魯迅ありヘッセもありて友のごとしも

夏木原松陰の詩にまむかへばさつきつつじがほのかに残る

難波津に百舌鳥の耳原尋ねたり松は緑のときはなる花

 

教師生活を終えた横浜への惜別。

文豪、画工に出会う海外への旅。

研ぎ澄まされた知性と感性の閃き。

 

咲くやこの花――

そう口ずさみつつ人を、歴史を、

風景を、そして世界を凝視する。

 

四六版上製カバー装 二五〇〇円・税別