遠住める子らに送らん絵葉書の末尾にしるす鎌倉は春
海も空も絵本の中に見たような青に染まりし岬を巡る
初出勤の若きら溢るる駅頭に春全開の気は漲りぬ
雲連れて西から東に行く風を横切りて人は釈迦堂目指す
客待ちの人力車夫の影法師リズムとりおり鳥居見上げて
ただの主婦ただの嫁ただの母なりきただのわたしに悔い少し持ち
小さき頭もむっちり柔き手も足も降りつぐ五月雨のほの明かき中
平穏な日日が事もなく流れていく。それでいい。そのままがいい。深呼吸を繰り返すように、生の時間の畔にたたずみ、そっと掬いあげてきたものたち。それを歌と呼ぼう。歌に私を、私を取り巻くすべてを精一杯語らせよう。
四六版上製カバー装 2500円・税別