「信濃の国は十州に」蓄音機の回転速めきひとり遊びに
浅間嶺の煙ひだりにたなびけば祖母言ひましき「戦始まる」
イスラムの地に踏み出せば目前に自動小銃向けられてをり
貧困とは無関心なりとマザー・テレサ 住所持たざる若者がゆく
ビルの間を浮遊するごと「ゆりかもめ」底は海とも陸とも知れず
鯉さばく腕を受け継ぐ祖父の言ふ肝はつぶしてならぬが鉄則
紛れもなく著者の歌の原点は故郷である。
〝ふるさと恋ひ〟の心情はどの歌にも微かな揺曳をみせ、作者自身である作品を形成している。
温井松代・序より
四六版上製カバー装 2500円・税別