その中に苦悶を溜めてゐるごとき鈍き音させ今し雪落つ
なまはげの面を付けたる瞬間に若者ふつと大きくなりぬ
目を伏せる花嫁の切手に消印は触るるごとくに押されてゐたり
江戸切子の青きグラスにさをさをと注げば酒の自づから冷ゆ
しなやかな腰に継ぎ足す竿竹の大きく撓ひて夜が明るし
秋田県大曲に生まれ育った篠田和香子さんに雪の歌が多いのは当然であろう。本書のタイトルも「雪の記憶」である。
雪の夜に生まれしゆゑの記憶ならむ遥かに聴こゆ雪の降る音
歌われているように雪の夜に生まれ、そのことを自分の原体験として大切にしている。
伊藤一彦・跋より
四六版上製カバー装 2600円・税別