絵の題は「水のほとり」と記したりいつか住みたし水のほとりに
船の荷を解けばかさりと音のして旅順の丘に摘みし吾亦紅
葉桜の影濃くなれる曲がり角かの日の花は白く咲きいし
駅までは行かずはづれの踏切に人を送りき初夏のこと
零したる水を掬ひしおろかさもなべて宥さむ八十四歳
確認しておきたいのは、麻生さんの作品の基本的なトーンが常に前向きな姿勢にあるといふことだ。これは何も麻生さんがらくらくと人生を過ごしてこられたからではない。当然、様々な困難を抱へながら生きてこられたはずである。
しかし詩に対するときの選択として、明るい面から切り取りたいといふ姿勢がこれらの作品を作らせてきたのである。改めて、その姿勢の尊さを思つてゐるところである。
馬場昭徳(解説より)
四六版上製カバー装 2500円・税別