サンマルタン運河は夏のきらめきを注ぎて白き船を持ち上ぐ
笛吹きが笛吹かずしてふふふふとわらひをさそふパリの祭日
二年目のパリの夜なれば驚かず青き火を噴くエッフェル塔よ
パリ同時多発テロの時期を含む3年間の官僚としてのパリ生活の中から生まれた340首。定住というには短く、旅行にしては長い3年という時間ならではの貪欲な取材がスリリングである。描かれた風景の輪郭はあくまでもクリアであり、表現された事物の動きが徹してシャープなのは、パリ独特の乾いた空気を味方につけた作者の手腕であろう。
佐佐木幸綱
左岸より右岸にわたり右岸より左岸にもどるビルアケム橋
シテ島にあたまのあかい鸚鵡ゐて君との日々を吾に語らしむ
ふちなしの眼鏡に顔を挿げ替へて硝子のパリのパサージュに入る
行きつけのカフェの給仕と初めての握手を交はすテロの翌朝
フランスの最後の晩餐友とゐて何度もなんども灯りの消える
四六版上製函入 2500円・税別