十一時二分を知らする何もなき船旅にゐて両眼を瞑る
月に一度島に教へに来てくれるピアノ教師を釣りでもてなす
人文字に分校の子ら足らざれば親もまじりて航空写真撮る
バナナ売らぬ土地日本になけれども越してゆきたる二歳に送る
シスターの運転で来しシスターは手土産持ちて眼科に入りぬ
一万六千人の冥福祈るサイレンが一万五千人のわが町に鳴る
事柄の大小を問はず、相手に近いところまですつと心を寄せることが出来る。このことは想像力と関係するのだらうが、辻󠄀尾さんが歌を作る上で、共感性の強さが大きな力になつてゐることは間違ひない。
馬場昭徳・解説より
四六版上製カバー装 2500円・税別