亡母の家も見ばやと登る甘樫丘に踏む土匂はむばかり
生駒市に住む作者の産土は明日香である。その産土の臍のような甘樫丘より、作者は世界を眺め、その眺めの奥に匂いたつ亡き父母や妹がいた風景を遠望する。達観した境地から、自らの老いを、そして生々流転する世を、ときにユーモアをまじえつつ詠む。
帯文・萩岡 良博
『甘樫丘より』より6首
水たまりの雲を呑みほしひとまはり大きく見えて鹿の寄りくる
両の手の杖ゆるゆるとわたりくる老い待つ車の列の静かさ
くさめしてわが耳出でし花びらの幻を聴き耳を病み初む
金庫ふかく仕舞はれてありし詠草も盗みて読めよわれの偸盗
くち
この唇のかたちなら「ぞうさん」が出かかつてゐるよ葉月のみどり児
あ
父母は木霊となりて吾を待つと思ふばかりにたどる飛鳥路
判型:四六判上製カバー装
頁数:214頁
定価:2500円(税別)
ISBN 978-4-86629-097-3