爛漫の今年桜に会ひたりし我には我のさくら咲かさう
井上さんは、「短歌は態度の文学である」という「国民文学」の信念と、短歌は自分史であるという信条のもと、物象を真っ直ぐに見詰め、ありのままを飾らず詠い続けてこられた。
青木陽子「『風なきに』に寄せて」より
『風なきに』より5首
暁をいづくゆ湧ける黒き鳥空を覆ひて北に渡れり
ばうばうとわが耳底に風の鳴り転生なども信じてゐたき
風なきにはららきやまぬ花桃の花の絨毯やはく踏みゆく
降ろされて畳まるる曾孫の鯉のぼり腹いつぱいの陽の匂ひ吐く
補聴器を外せばしんと音の無き闇に幽く百合の匂へり
判型:A5判上製カバー装
頁数:196頁
定価:2600円(税別)
ISBN 978-4-86629-120-8