筒井幸子歌集『ならやまの月』

定価:2500円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:182頁

ISBN 978-4-86629-166-6

ふるさとと呼ぶにはあはき東京をすぎてゆくとき橋のきらめく

 

晩年、先師前登志夫はよく言っていた。

「詠み人知らずの趣がいい」とー。

折々は古典の世界や師の言葉に立ち返り、

これからも筒井幸子さんの詠み続けるであろう。

自然との言問いを通して言葉を紡ぐこと、

それは自らの帰る場所を知ることに他ならない。

           /遠山利子「解説」より

 

 

 

春日野に群れゐる濡れし眼のうなゐ乙女が秋をつれきぬ

 

青草の宮址の空にひばりあがり歩いても歩いてもたどり着けない

 

塩壺にしほが減りゆく毎日を塩を充たしてまた最初から

 

木枯しの夕べ空ゆく黄の蝶を見たといふ子の手をひき帰る

 

とろとろと小豆煮てゐるいちにちの箸でつまめばくづるるわたし