苅谷君代歌集『白杖と花びら』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:196頁

ISBN978-4-86629-193-2

 

第29回ながらみ書房出版賞受賞!!

 

先天性緑内障のため、右眼の0.01の視力にのみ依存する生活を続ける作者である。しかし、毎月、通常の倍の大きさの原稿用紙に、サインペンの大きな字で、一字一字しっかり書かれた歌が送られてくる。歌にこめた気迫に圧倒され、歌への真摯な姿勢が粛然としつつ、選歌をするのである。

 

 子が本を読んで欲しいとねだりし日われは点字を学びてゐたり

 「羨(とも)しきもの」われが清少納言なら一に本読む人をあげたり

 

ほしいままに本を読むことができない焦り、悲しみ、そして諦めは、私たちが軽々に言及できるところのおmのではないが、にも関わらず、慣れぬ白杖を友として、ゆくり歩を進めようとする作者がいる。私はそんな作者の歌への向かい方に、人に歌があることのもっとも根源的な喜びを見る思いがするのである。

                           永田和宏 帯文

 

 

 

『白杖と花びら』より5首

 

握手するやうに白杖持つ右手「よろしく」なんてつぶやいてみる

 

むさぼりて本を読むゆめ合歓の葉はわたしの夢を閉ぢてひらかず

 

見えなくとも文字を並べてゆくことはできるよ花の種蒔くやうに

 

さびしさをまる洗ひして干す日なりばん、と叩きて纏ふため

 

牧水の海も山も見む 白杖と歩いてゆくと決めたる日より