武藤義哉歌集『春の幾何学』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:202頁

ISBN978-4-86629-265-6

第一歌集。

 

合唱の声が次第にまとまって誰の声でもな声となる

 

それぞれに満月ひとつ詰められて販売される花札の箱

 

海中(わたなか)の世界で飛び魚が語り伝える風の体験

 

不思議な歌集だと思う。

この歌集では、しばしば現代短歌の主役をつとめる<われ><現在><人間>が主役ではなく、脇役をつとめたり、全く出てこなかったりする。

だからだろう、私たち読者は、どこに連れて行かれるか分からない楽しみと冒険とほんの少しの不安を味わうことになる。

ーー佐佐木幸綱・帯文

 

 

 

『春の幾何学』より五首

 

どこから来てどこへ行くかと駅員に根源的なことを聞かれる

 

光線が斜めにさして垂直に生命(いのち)たちゆく春の幾何学

 

たんぽぽの綿毛預かり青空はまたたんぽぽの配置を変える

 

さざなみにしばし休んでもらうため今朝湖は氷を張った

 

少しずつ薔薇色帯びてゆく宇宙 天文学者の晩酌進む